とっておきの装い
「とっておきの装い」と言われたら、わたしにはこのピアスしか思い浮かばない。
結婚式に参列するときも、ちょっと高級なフレンチレストランで食事をするときも、ドレッシーな服装でも、少しカジュアルな服装でも、どんなシーンにもフィットしてくれる。けれど主張しすぎることなく、バランスをとってくれる。まさに名前の通りだと思う。
これを選ぶのは、きちんとしたジュエリーはこれくらいしか持っていないということだけではなく、買おうと決めたときの感情を、鮮明に思い出すことができるからだと思う。
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25歳になったとき、アラサーになったことだし、記念になるものがほしいと思っていた。
ジュエリーは比較的価値が下がりにくいし、おばあちゃんになっても使えるからブランド物のバッグよりいいよ、と先輩からのアドバイスをもらって、ジュエリーをひたすら調べた。
素敵なものがたくさんありすぎて、選ぶことができなかった。それに、今の自分が買ってよいのか?身の丈にあっているのか?と思うようになっていた。
それからしばらくして、25歳で買うのではなく、自分で納得できるタイミングで買おう、と思い直した。その当時ははっきりしていなかったけれど、なんとなく、タイミング=仕事で結果が出せたとき、と心の中で照準が置かれたような気がする。
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社会人6年目の冬。2年ほどかけた大きなプロジェクトがようやく終了し、その結果として社内表彰をいただいてしまった。このときほど「失敗は自分のせい、成功は仲間のおかげ」という言葉を思い出さずにはいられなかった。
そのボーナスの通知を聞いたとき、本気でびっくりした。前年のボーナスのほぼ倍。告げた上司は「お前が頑張った証拠だし、事業部で初めてMVPをとったんだから、これくらいいいんだよ」と言われた。
面談でフィードバックを受け、改善すべき点も聞いてからも、気持ちがずっとふわふわしていて、現実でないような気がしていた。
給料だけのために働いてると言えば嘘になるし、かといって給料はいらないと言えばそれもまた嘘になる。けれど、自分の努力が数字として表れることにひとしおの達成感を感じることができていて、ふわふわした気持ちが、1つの気持ちに固まってゆく感覚がする。
このときにようやく、この頑張りを忘れないために、ジュエリーを買おう、と決心することができた。
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年が明けて新年。いつもは通りすぎる、百貨店のジュエリーフロアに向かう。
買うものは決めていたけど、もう一度、耳にあててみる。やっぱりこれだ、と実感する。即決で購入する。
レシートにサインをしてクレジットカードをきってもらう。事前に知っていた値段だけど、それでもどきどきする。真珠を買うと、うやうやしい証明書がつくことを初めて知る。こんな素敵なものが、自分のものになって、不思議な気持ちになってくる。家に帰って、もう一度確かめるように小さな箱を開けて眺める。
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この黒い箱を見るたびに、いつも胸がキュッとして、身が引き締まる思いがする。黒い小さな箱が、5粒の真珠が、あの感覚を忘れてはいけない、と伝えているような気がする。それは、私にしか価値のない、値段以上の価値。"この頑張りを忘れたくない"という気持ちには抜群の効果だった。